圧電素子を使った構造物の損傷発見

【背景】

2033年には,約67%の橋梁が築50年以上経過して,頻繁に保守・点検する必要がある(図1参照).そこで,本研究では,橋梁の損傷を事前に察知する安価なIoTシステムを開発している.圧電素子・Zigbee・FPGAなど比較的安価な技術を使ってシステムを開発することにより,普及を図りたいと考えている.

図1 築50年以上の橋梁の割合

【システムの全体構成】

本研究室では,図2に示すような構造ヘルスモニタリングシステムの開発が行われている.このシステムは,測定モジュール,損傷を撮影するカメラ,クラウドサーバーなどで構成されている.

測定モジュールは橋梁の表面に設置されおり,主に橋梁の振動を計測している.振動のフーリエスペクトルのデータを収集モジュールに送信している.送信されフーリエスペクトルは,収集モジュールからイーサネットを介してクラウドサーバーに送信される.クラウドサーバーは,日本全国の橋梁の計測データを管理しており,そのデータから橋梁の損傷を発見することが出来る.実際に,ウェブ上で橋梁の振動の波形とその橋梁の損傷同定の結果を確認できている.

さらに,橋梁の損傷部位の画像をカメラで撮影し,その画像から損傷の危険度の自動判定も行っている.損傷度の自動判定のために,クラウドサーバーはCNN(Convolution  Neural Network)を用いたディープラーニングのシステムを兼ね備えている.

図2 システムの全体構成

【圧電素子を用いた損傷発見】

提案システムの構成を図3に示す.提案システムでは,複数の計測モジュールと,収集モジュールおよびクラウドサーバーで構成される.橋梁などの計測の対象となる構造物に,複数台の計測モジュールと1台の収集モジュールを設置する.各モジュールは自律的にネットワークを構成し,一日に数回時刻同期を行う.収集モジュールは各計測モジュールに対して計測を行う時刻を通知する.計測開始時刻になると,計測モジュールは波形計測及びスペクトル解析を行う.解析結果は自動的に収集モジュールに収集され,イーサネットを通じてクラウドサーバーにアップロードされる.本システムを全国の構造物に設置することで,あらゆる構造物の損傷状態をクラウドサーバーにて一元管理する.解析結果はwebアプリケーションにより可視化され,ユーザはPCやタブレット端末でサーバーにアクセスし,解析結果を確認する.

図3 圧電素子を使った損傷同定システムの構成

計測モジュールの構成を図4に示す.計測モジュールは,圧電素子8個,外部A/D変換ボード,ZYBO及び同期モジュールで構成される.計測モジュールは構造物に伝わる振動波形を圧電素子により計測し,その振動波形のスペクトルを解析する.解析結果は無線通信で収集モジュールに送信する.

図4 計測モジュールの構成

外部A/D変換ボードは,圧電素子が生じる電荷を電圧に変換し,デジタル信号に変換するボードである.外部A/D変換ボードは,チャージアンプ,A/Dコンバータで構成される.圧電素子は圧力やひずみが加わると,それに応じた電荷を生じる.A/Dコンバータで圧電素子に加わる圧力やひずみを計測する場合,電荷信号を電圧信号に変換する必要がる.従って,変換回路として図5のチャージアンプを用いる.

図5 チャージアンプ回路

【実験】

図6に実験に使用した供試体の概観を,図7に圧電素子の配置図を示す.使用した供試体は主にアルミの棒部材が使用されており,桁長2400mm,全幅300mmの格子桁である.本供試体の固有振動数は3.61Hzである.また,主桁の1箇所に添接部が設けられており,健全,損傷(添接部の片側を抜いた状態),破断の3状態に変更することができる.圧電素子は主桁と横桁の格間8箇所に接着する.本試験では,健全,破断状態での応答の変化を測定し,先行研究で報告された結果と比較した.加振は,供試体中央部に500gの重錘を載荷し,これを取り外すことにより自由減衰振動を発生させた.

図6 試験用橋梁

図7 圧電素子配置

図8 測定結果